「おー。持ってく~?」
そんな具合に近所のご主人が軽トラの荷台からガサゴソと出してくれたのは、ひとつかみの『カメノテ』でした。
「磯もん(磯もの)だよ。」
集落の人たちがちょうどいまくらいの時期、辺りの磯で採る『カメノテ』や『フジツボ』そのほか貝のたぐいをひっくるめて『磯もん』と呼ぶ。
「みそ汁のだしとかさ、ほら、こうやって割って食うんだよ」なんて身振りを交えて教えてくれた。
いただいた『磯もん』を手に持って、ふと辺りの海を眺めると、なるほど潮がうんと引いていた。
5月の大潮(潮が引く日)では、ふだん波の下にあるいろいろなものが水から顔を出すので、こうして収穫をすることができるという具合。
『カメノテ』
『カメノテ』というのは、よく磯の岩と岩の隙間なんかに白っぽい牙のようなのが一列に並んでいるのを見かけることがあるのだけれど、それがそれなりのサイズに成長したもの。
牙のような部分の高さが2センチほどに成長すると、その下にある体(身)の部分は3センチくらいになる。(この写真でウロコみたいになっている部分)
塩水で茹でてウロコみたいな部分をむくと身が出てくる。
弾力のある身はイカみたいな味。
お腹がいっぱいになるものではないけれど、この時期にだけこうして口に入るもので、この香り、この味、この季節、そしてきっと「磯もん採りに行こうぜ」という愉しみそのものを味わうもののようだ。
茹でた『カメノテ』をつまみながら、海べで暮らす人々にとって海は、私たちの想像している以上に大切な場所なのだということをとても強く感じたのでした。